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かお

顔

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,099 字 · 23 页

青空文庫

ルイザは、絶え間なく聖母まりーあを称えながら涙を流した。ハンスが大きな体躯で寝返りを打つ毎に少しずつ傍にずって遣りながら、彼女は、フランツの髪や眼の黒いことを私(ひそ)かに不平に思ったり、後の子供達の生れない苦情を訴えたりしたことを、慈悲深い聖母に謝罪した。

このことがあってから、ハンスとルイザとは、自分の息子に対する心持を変えた。彼等はフランツを、時が来るまで――それは勿論いつか判らないが――自分達にあずけられている者と云う恭々しい感じを深めた。もう、人が目をつけることも恐れなかった。誰か、

「あれはお前さんの息子かね」

とききでもすると、ハンスは元のように眼を逸するようなことはせず、鄭重に答えた。

「さよう、あれはフランツ・アルブレヒト・ヨーストです」

少年のフランツ・ヨーストは、次第に自分の生活が何だか他処の子とは異うようなのに心付き始めた。

例えば、隣りのエルンストは、彼と同じ年であったが、よく父親に怒鳴られて耳を引張られていた。自分は唯の一度父親に耳たぼさえつねられたことがあるだろうか。

忘れられないことがあった。

ちょうど堅信礼を受けて間もない或る日、彼は父親が直したばかりの自鳴器(オルゴル)つき懸時計を、仕事場の此方から、彼方の壁に持って行って吊ることを云いつけられた。