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かぜにのってくるコロポックル

風に乗って来るコロポックル

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页

青空文庫

上ったり……下ったり……右へ行ったり……左へ行ったり……

面白いものだなあと思っているうちに、二つの瞳から入った律動が、だんだんと彼の胸を、想いを揺り動かして来る。

そして、知らないうちに囁きは呟(つぶやき)になり、呟は謡となってイレンカトムの唇には、燃え出した霊の華が、絢爛(けんらん)と咲き始めるのである。

抑えられない感興の波に乗り、眼を瞑り手を拍って我も人もなく大気の下に謡うとき、イレンカトムよ! 卿の額は何という光りで輝き渡る事だろう。

彼は、その太陽を謡う。その蒼空を讃美する。

この蒼穹(そうきゅう)のように麗わしく、雲のように巧な繍手であったペケレマットよ!

今巣立ちした、鳥の王なる若鷹のように雄々しい我が息子よ!

我が父も、そのまた父も耕したこの地に立って、お前方に呼び掛ける、この年老いた父の言葉を、

我妻よ! 我子よ! どうぞ聞いてくれ!

母音の多い一言一言が、短かい綴りとなって古風な旋律のままにはるばると謡い出されるとき、彼というものは、その華麗な古語のうちに溶け込んでしまうのが常であった。

彼は野へ行っても、山へ行っても、興さえ湧けば処かまわず謡い出す。