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かぜのたより
風の便り
1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页
決して、お怨みしているのではございません。とんでも無いことであります。その点は、なにとぞ御放念下さい。私は、けさの簡単なお葉書のお言葉に依って、私の身の程を、はっきり知らされたのです。かえって有難く思って居ります。こうして書いているうちにも、だんだんはっきり判って来ます。つまり、けさ私がお葉書をいただいて、その葉書の処置に窮して、うろうろしたのは、自分の身の程を知らされて狼狽していただけの事でありました。少しは私にも、作家としての誇りもあったのでしょう、その誇りのやり場に窮して、うろうろあのお葉書を持ち廻っていたのに違いありません。私は、はじめから、やり直します。さらに素直に、心掛けます。
「華厳」を、あれから、もう一度、ゆっくり読みかえしてみました。最初、お照が髪を梳いて抜毛を丸めて、無雑作に庭に投げ捨て、立ち上るところがありますけれど、あの一行半ばかりの描写で、お照さんの肉体も宿命も、自然に首肯出来ますので、思わず私は微笑みました。庭の苔の描写は、余計のように思われましたけれど、なお、もう一度、読みかえしてみるつもりであります。雨後の華厳の滝のところは、ただもう、にこにこしてしまいました。