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かぜのたより

風の便り

太宰 治

1942(昭和17)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页

青空文庫

仕合せな事です。日本は、芸術の国なのかも知れぬ。

すべては、これからです。自分も、死ぬまで小説を書いて行きます。その時のジャアナリズムが、政府の方針を顧慮し過ぎて、自分の小説の発表を拒否する事が、もし万一あったとしても、自分は黙って書いて行きます。発表せずとも、書き残して置くつもりです。自分は明白に十九世紀の人間です。二十世紀の新しい芸術運動に参加する資格がありません。けれども、一粒の種子は、確実に残して置きたい。こんな男もいたという事を、はっきり書いて残して置きたい。

君は、だらしが無い。旅行をなさるそうですが、それもよかろう。君に今、一ばん欠けているものは、学問でもなければお金でもない。勇気です。君は、自身の善良性に行きづまっているのです。だらしの無い話だ。作家は例外なく、小さい悪魔を一匹ずつ持っているものです。いまさら善人づらをしようたって追いつかぬ。

この手紙が、君への最後の手紙にならないように祈っている。敬具。

七月三日井原退蔵

木戸一郎様

拝啓。

のがれて都を出ました。この言葉をご存じですか。ご存じだったら、噴き出した筈です。