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かぜのたより
風の便り
1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页
私は、農民の事を書いている「作家」に不満があるのです。その作品の底に、作家の一人間としての愛情、苦悩が少しも感ぜられません。作家の一人間としての苦悩が、幽かにでも感ぜられないような作品は、私にとってなんの興味もございません。あなたの作品が、「やまと新報」に連載せられていたのは、あれは、あなたが三十二、三歳の頃の事であったと思われますが、あの頃、あなたが世の中から受けていた悪評は、とても、猛烈なものでありました。あなたは、完全に、悪徳漢のように言われていました。けれども、私は、あなたの作品の底に、いつも、殉教者のような、ずば抜けて高潔な苦悶の顔を見ていました。自身の罪の意識の強さは、天才たちに共通の顕著な特色のようであります。あなたにとって、一日一日の生活は、自身への刑罰の加重以外に、意味が無かったようでありました。午前一ぱいを生き切る事さえ、あなたにとっては、大仕事のようでありました。私は、「鶴」以来、あなたの作品を一篇のこさず読んでまいりました。あれから二十年、あなたは、いまでは明治大正の文学史に、特筆大書されているくらいの大作家になってしまいました。