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かぜのたより
風の便り
1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页
私は、面を伏せて歩いているけもののようです。私には美学が無いのです。生活の感傷だけです。私は、これから、いよいよ野暮な作品ばかり書いて行くような気がします。なんだか、深く絶望したものがあります。
あなたからいただいたお手紙は、生涯大事に、離さずに、しまって置きます。
たくさん、おゆるし下さい。再拝。
八月十六日木戸一郎
井原退蔵様
拝復。
何が何やら、わからぬ手紙をもらいました。二十円は、たしかに受け取りました。自分だって、君にお金を差し上げるなど失礼な事を考えていたのではない。返して頂くつもりでありました。それに、自分は、お金があり余って処置に窮するほどの金満家でもありませんから、返してもらって助かりました。君たちは本当にせぬかも知れぬが、自分の家では、昔からの借銭が残って月末のやりくりは大変であります。どっちの方が貧乏人なのか、わかったものでない。君は、二言目には、貧乏、貧乏といって、悲壮がっているようだが、エゴの自己防衛でなかったら幸いだ。人に不義理はしていねえ、という事が唯一の誇りだとか言っているが、無理なつき合いはしたくねえ、というケチな言葉も、その裏にはありはしないか。