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ふうりゅう

風流

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第十三号」1951(昭和26)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,419 字 · 19 页

青空文庫

「むしろ、混乱の暗黒時代が長いほど、正しい位置に近づくであろう」

私はそう信じ、そう書いた。

しかし、混乱は短かかった。占領軍の処置よろしきを得たせいもあるが、一ツは、これぞ日本人にそなわった風流の魔力であったようだ。

そして、正しい位置に近づく代りに、いとカンタンに昔に戻ることを急ぎ、その目的を達したようである。おまけにそれは一番近い昔に戻った。

一番近い昔とは負けるまでの戦争中の日本である。軍部の独裁的なやり方を政府や官僚がうけつぐことによってカンタンにまた速やかに昔に戻ったようだ。

「実に風流だ」

私は呆れたり、いまいましいが、感嘆したりもしたのであった。

穴の入口の朝顔を鉢植えにし鉄骨ビルの窓へうつすことも、また穴へ戻って入口に植えかえることも、それを無碍の境地で行い、苦もなく安住する悟道が天性的に備わっているが、それを支えているものは、すみやかに忘れるという天与の健忘症によるのであろう。

風流の奥儀の重大な一項目、一教訓には、すみやかに忘れよ、とあるに相違ない。

しかし、この戦争の惨禍を、こうすみやかに忘却の淵へ沈めこむほど万人が風流の奥儀に通達していることを、私はとうてい事前に信じることができなかったのである。