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ふうきんとさかなのまち

風琴と魚の町

林 芙美子

「改造」1931(昭和6)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,372 字 · 27 页

青空文庫

母の、手拭を巻いた小指の先きが、椎茸のように黒くなった。

町の上には小学校があった。小麦臭い風が流れていた。

「こりゃ、まあ、景色のよかとこじゃ」

手拭でハタハタと髷の上の薄い埃を払いながら、眼を細めて、母は海を見た。

私は蓮根の天麩羅を食うてしまって、雁木の上の露店で、プチプチ章魚の足を揚げている、揚物屋の婆さんの手元を見ていた。

「いやしかのう、この子は……腹がばりさけても知らんぞ」

「章魚の足が食いたかなア」

「何云いなはると! お父さんやおッ母さんが、こぎゃん貧乏しよるとが判らんとな!」

遠いところで、父の風琴が風に吹かれている。

「汽車へ乗ったら、またよかもの食わしてやるけに……」

「いんにゃ、章魚が食いたか!」

「さっち、そぎゃん、困らせよっとか?」

母は房のついた縞の財布を出して私の鼻の上で振って見せた。

「ほら、これでも得心のいかぬか!」

薄い母の掌に、緑の粉を吹いた大きい弐銭銅貨が二三枚こぼれた。

「白か銭は無かろうが? 白かとがないと、章魚の足は買えんとぞ」

「あかか銭じゃ買えんとな?」

「この子は! さっち、あげんこツウ、お父さんや、おッ母さんが食えんでも、めんめが腹ばい肥やしたかなア」