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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

心から吐息をついた。瀬川の生きかたを理解し、瀬川の性格の美しさがわかっていても、くりかえし、くりかえし執拗に生活を破壊されることに牧子は殆ど耐えがたくなって来ていたのであった。

「年末になると、わたし段々おなかが重くなるし、そうすると又暫くお会い出来ないから、きょうこそと思って……」

牧子は、いかにも心の祝いをあらわすように、

「これをおばちゃんに上げましょうね」

袋のよこにさし出ていた白い小菊の花束をくれた。

「いいにおい。――うれしいわ、丁度石田がねているから」

「病気がおわるいの?」

「足なのよ。痛くて歩けなくなったの。たださえくたびれるのに、よく方角を間違えて、途方もなく歩いたりするんですもの」

道が二股にわかれて、一方の草堤に自立会と明瞭に書いて矢じるしをつけた立札が立っていた。ひろ子たちの前の方を、背広の男が一人ゆっくり歩いていた。遠くからその立札に目をつけているのが、うしろつきでわかった。あの人も行くのかしら。そう思って見ていると、その男は立札のところで歩調をゆるめ、自立会という三つの字を改めてとっくりたしかめるように見て、それなり来た道をまっすぐ雑木林の方へおりて行った。