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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
その封筒を見せた。
裏をかえしてみて、重吉は、
「文学報国会とあるじゃないか、何だい」
と云った。
「なかを見てよ」
「その日の雪」という題と名だけはひろ子の自筆でかかれている三十枚ほどの小説を、重吉は怪訝そうに、ところどころよんだ。
「誰かに写させたのかい?」
「文学報国会で、戦争中、作品集を出す計画があったんです。そのとき、わたしも会員だったから、作品一篇自選しておくれと云って来たの。それを送ったら、都合によってお返しするとかえして来たのよ」
「ひろ子が自分から送ったのか」
「ええ」
「わざわざ写させてか?」
「そうなの」
重吉は、口元に一種の表情をうかべて、少し念入りにその原稿を見直した。
「婦人雑誌に、何だか中途半端な小説をいくつか書いていたときがあった、あの一つだね」
「そうなの」
原稿を床のそとの畳へ放り出すように置いた。
「ほかの人達もみんな出したのか」
「そうでしょうと思うわ」
「そして、その本は出たのかね」
「どうなのかしら――わたしは見たことないけれど……」
重吉はしばらく黙って、ひろ子の顔をまじまじと見つめた。ひろ子も、その重吉の二つの眼が、ふだんとちがって濃い睫毛に黒くふちとられた四角い二つのまなことなって自分の上にあるのを見ていた。