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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

検事局思想部の掛札も、もぎとって床にすてられた。画面にふたたび、府中刑務所のいかめしい正門が見えて来た。遂にこの扉の開かれる日が来ました、という言葉とともに、しずかに、ひろく一杯に刑務所の大門が開いた。急にカメラの角度がかわって、ひろ子たちの方へのしかかって来るように、その門の中からスクラムを組み、旗をかざし、解放された同志たちを先頭にした大部隊が進行して来た。真中に徳田、並んで志賀、その他ひろ子の顔も見分けられない幾人かの人たちが、笑い、挨拶の手を高くふりながらこちらに向って進行して来た。隊伍の足なみは段々精力的に高まって来て、ある角では出獄した同志たちが、肩車ではこばれる姿が見えた。或るところでは、体をうしろに反らせた駈足となり、幾本もの旗は列をとりまいてひらめき、わっしょ、わっしょという地鳴りのような声々とザッザッ、ザッザッと規則正しくふみしめる靴音は津波のように迫って、やがてその蜒々たる列伍は、歴史的な時間の彼方に次第次第と遠のいて行った。幾千人もの鼓動とともにはき出される、そのわっしょ、わっしょという力のこもった声と、ザッザッ、ザッザッという地ひびきとは、ひろ子を泣かせて、涙を抑えかねた。