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きがちたいをあるく

飢餓地帯を歩く

下村 千秋

――東北農村惨状報告書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页

青空文庫

「でも、このあたりの畑も、今年はひどい不作でした」

百姓達に取っては、美しい自然の風景は、同時に食物を豊かに実らす土地でなければならないのだ。その土地が、全く食物を実らすことが出来なければ、美しい自然も風景もあったものではないのだ。――私は、ここでも黙るより外はなかったのである。

ところで私は、この青年の言おうとしていることを、もっと率直に露骨に叫んでいるのを、七戸町のある暗いめし屋で聞いたのである。

それは、五十ぐらいか、それとも六十の老爺か、長い間の生活の寒風に曝された顔は、松の皮のように荒れて硬くなっていた。彼の前には、二本ばかりの徳利が、置かれてあった。そして、相応に酔っていた。

「それでも酒も飲める男もいるのだ」

私は、そう思いながら、気持ちよくその男を見ていたのだが、その男は、木の瘤のような拳をふり上げながら、めし屋の主婦を相手に叫んでいるのだ。この地方の言葉を言っているので、私には解らない所が非常に多かったが、しかし大体は聞きとれた。

「いいか、おかみさん、二年半育てた馬が只の三十五両だよ。それも、この七月に渡してその金がまだ入らねえだ。