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きょうおうふじん

饗応夫人

太宰 治

「光」1948(昭和23)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,914 字 · 13 页

青空文庫

」

ばかばかしい。奥さまの財産も、いまではとても心細くなって、このぶんでは、もう半年も経てば、家を売らなければならない状態らしいのに、そんな心細さはみじんもお客に見せず、またおからだも、たしかに悪くしていらっしゃるらしいのに、お客が来ると、すぐお床からはね起き、素早く身なりをととのえて、小走りに走って玄関に出て、たちまち、泣くような笑うような不思議な歓声を挙げてお客を迎えるのでした。

早春の夜の事でありました。やはり一組の酔っぱらい客があり、どうせまた徹夜になるのでしょうから、いまのうちに私たちだけ大いそぎで、ちょっと腹ごしらえをして置きましょう、と私から奥さまにおすすめして、私たち二人台所で立ったまま、代用食の蒸しパンを食べていました。奥さまは、お客さまには、いくらでもおいしいごちそうを差し上げるのに、ご自分おひとりだけのお食事は、いつも代用食で間に合せていたのです。

その時、客間から、酔っぱらい客の下品な笑い声が、どっと起り、つづいて、

「いや、いや、そうじゃあるまい。たしかに君とあやしいと俺はにらんでいる。あのおばさんだって君、……」と、とても聞くに堪えない失礼な、きたない事を、医学の言葉で言いました。