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こうでん
香奠
豊島 与志雄
「時流」1925(大正14)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页
」
「それなら何も心配はいらない。気持のいい素人下宿でも探すんですね。ただ、布団だけは持っていないと大変不経済だし、借りたのでは長い間の辛棒は出来ないから、すぐに送って貰うように云ってやったらどうです。」
「そうしましょう。」
そこで、布団が来るまで彼は一時私の家にいることになりました。
母上
平田伍三郎が私の家にいたのは、二週間ばかりの間だったと覚えています。そして彼は、当にしていた私の家に長く居るわけにはゆかず、やがて一人で下宿へ移らなければならないことを、別に悲観した風もなく、四五日後には、神田の正則英語学校の受験科にはいって、英語の勉強を初めました。
「東京の学校は不親切ですね。」と彼は云いました。「鐘が鳴ると先生が教室にはいって来て、ぺらぺらぺらぺら、恐ろしい早口で饒舌り続けて、そしてぷいと出ていってしまいます。何にも分りはしません。質問する時間もありません。それに少し遅れていくと、もう坐る場所が無くなって、立っておらなければなりません。あんなに不親切であんなに繁昌するのはやっぱり東京ですね。」
その調子は、不平を感じてるというよりも寧ろ感心しているという風でした。