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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

前にあなたからと平田の伯父からと、二つの手紙が来ていましたから。けれども、あなたのお手紙には、隣村の平田という人が東京へ行くとかいうので、その伯父さんが来てよろしく頼むという話だった、とただそれだけのことでしたし、平田の伯父の手紙には、伍三郎が近いうち東京へ勉強に出るから、隣村のよしみで万事御指導をお願いしたい、という簡単な文句だけだったものですから、私はただ一通り挨拶の返事を出したきりでした。それから二週間もたった後、行くから頼むという電報なものですから、全く意外な気がしたのです。一体東京へ出て来て、何を勉強するのか、どの学校にはいるのか、下宿はどうするのか、いつ東京へ着くのか、何もかもさっぱり見当がつかないで、私はただ電報を眺めていました。

「随分呑気な人ですわね。」と妻が云います。

「然しいきなり出てくる所をみると、」と私は答えました、「もうちゃんといろんなこともきまっていて、僕の所へはただ挨拶だけのつもりかも知れないよ。それにしても電報を寄来すのは少し変だが……。」

でも兎に角、愈々出て来るというなら、来た上で何とかなるだろう、とそう思って、待つとはなしに待っていました。