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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

こないだのように一緒に芝居を見にいったことなんか、まだ一度きりなんです。」

「そして一体君達の間の関係はどうなってるんだい。」

「関係って何にもありゃあしません。それだけのことなんです。」

「だって可笑しいじゃないか。若い男と女と外で始終逢っていて……。そんなら聞くが、君はその女と結婚する気があるのかね。」

「結婚なんか真平ですよ、あんな女と。向うでも嫌でしょう。」

「へえー、どうも僕にははっきり分らないが……。」

「だって先生の方が可笑しいじゃありませんか。一人で歩くより二人で歩いた方が面白いから、そうしてるだけなんです。」

彼の答えは如何にも平明で、何等疚しいところもなさそうです。それかといって私にはやはり腑に落ちないんです。そして変な問答をくり返してるうちに、家の者が帰ってきました。

「まあー、平田さん……。」

そう云って立ったまま眼を見張ってる妻の前に、彼は頭をかきながら極り悪そうにお辞儀をしました。次には子供達が左右から彼に寄っていって、彼を奪い取ってしまいました。

で話はそのままになって、彼は夕食の馳走になってゆくことになりました。

妻の心尽しで、餉台の上には酒の銚子まで並んでいました。