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うま

馬

佐左木 俊郎

「新潮」1932(昭和7)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,299 字 · 15 页

青空文庫

」

耕平はそう言って、五十銭ばかりずつ賃銀を、母親のところへ運んで来た。それは、籠に水を汲み溜めようとするようなもので、穴だらけな生活の中へ消えて行ってしまうのであったが、父親も母親ももう、耕平が砂利貨車に働くことを止めようとはしなかった。そして母親は、耕平の肩に、成田山の守護札などをかけてやった。

併し、そんな風にして一ヵ月ばかりも過ぎたころ、耕平は、進行中の貨車と貨車との間に墜落して、胴体を切断された。殆ど即死であった。父親の伝平も母親のスゲノも、驚きだけが先に来て、涙も出なかった。遣る瀬の無い悲しみの涙がじめじめと頬へ匐い出して来たのは、耕平が死んでから十日も過ぎてからであった。そして、父親も母親も、失神の状態で、幾日も幾日も仕事が手につかなかった。それでも、砂利会社からの慰藉金や、同僚達からの香奠などを寄せると、伝平夫婦の手には、百円ばかりの金が残った。

「これこそあ、耕平の野郎の、身の代金だぞ。無暗なことにあ遣われねえぞ。この金は、金として、取って置かなくちゃ。」

伝平はそう言って、その金で馬を買う気持ちさえも、その当座は起こらないらしかった。