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えきふにっき

駅夫日記

白柳 秀湖

「新小説」1907(明治40)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页

青空文庫

五位鷺が鳴いて夜は暁に近づいた。

十七

その年も暮れて私は十九歳の春を迎えた。

停車場ではこのごろ鉄の火鉢に火を山のようにおこして、硝子窓を閉めきった狭い部屋の中で、駅長の影さえ見えなければ椅子を集めて高谷千代子と大槻芳雄の恋物語をする、駅長と大槻とは知己なので駅長のいる時はさすがに一同遠慮しているけれども、助役の当番の時なんぞは、ほとんど終日その噂で持ちきるようなありさまである。おれはかしこの森で二人の姿を見たというものがあれば、おれはここの野道で二人が手を取って歩いているのを見たという者がある。それから話の花が咲いて、あることないこと、果ては聴くに忍びないような猥りがましい噂に落ちて、ドッと笑う。

最もこれは停車場ばかりの噂ではなかった、長峰の下宿の女房も、権之助坂の団子屋の老婆も、私は至るところで千代子の恋の噂を耳にした、千代子は絶世の美人というのではないけれども、大理石のように緻やかな肌、愛嬌の滴るような口もと、小鹿が母を慕うような優しい瞳は少くとも万人の眼を惹いて随分評判の高かっただけに世間の嫉妬もまた恐ろしい。

嫉妬! 私は世間の嫉妬の恐ろしさを今初めて知った。