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えきふにっき
駅夫日記
白柳 秀湖
「新小説」1907(明治40)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页
掘割工事のところに入ると徐行して、今土工列車の傍を通る。土方は言い合わせたように客車の中をのぞき込んだが何か眼についたものと見えて、
「ハイカラ! ここまで来い」
「締めてしまうぞ……脂が乗ってやあがら」
「女学生! ハイカラ! 生かしちゃあおかねいぞ」
私は恐ろしい肉の叫喚をまのあたり聴いた。見ると三等室の戸が開いて、高谷千代子が悠々とプラットホームに降りた。華奢な洋傘をパッと拡げて、別に紅い顔をするのでもなく薄い唇の固く結ぼれた口もとに、泣くような笑うような一種冷やかな表情を浮べて階壇を登って行ってしもうた、土方はもう顧る者もない、いつの間にかセッセと働いている。
私はなぜに同じ労働者でありながら、あの土方のようにさっぱりとして働けないのであろう。
土方が額に玉のような汗を流して、腕の力で自然に勝って、あらゆるものを破壊して行く間に、私たちは、シグナルやポイントの番をして、機械に生血を吸い取られて行くのだ。私たちのこの痩せ衰えた亡者のような体躯に比べて、私はあの逞しい土方の体躯が羨ましい、そして一口でもいいからあの美しい千代子の前に立って、あんな暴言が吐いて見たい。