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がいこつのくろんぼ

骸骨の黒穂

夢野 久作

「オール読物」1934(昭和9)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,160 字 · 28 页

青空文庫

煮肴や何かも藤六と同じように朝早く自分で仕入れて来て、自分で料理するのであったが、それが仲々器用で美味いという評判であった。

ところがその春頃になると又不思議な事に、あれ程執念深く直方に集中していた乞食連中がいつの間に、どこへ消えたのか殆んど一人も居なくなっていた。程近い英彦山参りや、新四国参りの巡礼以外には探しても見当らなくなってしまった。人々はこうした現象を乞食の赤潮といって驚いていたし、警察側でも頻りに首をひねっていたが、しかし、こうした奇現象の原因は容易に考えられなかった。

新暦の桃の節句の晩であった。

いい月夜であったが店が割合に閑散で、珍らしく客が早く引けたので、銀次はチョット表に出て前後の往来を、月の光りで遠くまで見渡してみた。それからイツモの通りに慌しく表の板戸を卸して小潜の掛金をシッカリと掛け、裏の雨戸を閉めて心張棒を二本入れた。藤六の位牌の前に床を展べて煤けたラムプを吹き消そうとすると、トタンに表の戸をトントンとたたく女の声がした。

「すみません。あけて下さい」

銀次はチョットの間、その音を睨み付けて脅えたような顔をした。ラムプの下で屹と身構えをしていたが、微かにチョッと舌打ちをすると寝間着の古浴衣のまま面倒臭そうに上り框を降りた。