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こうげん

高原

寺田 寅彦

「家庭」1935(昭和10)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,139 字 · 7 页

青空文庫

桃色珊瑚ででも彫刻したようで、しかもそれよりももっと潤沢と生気のある多肉性の花弁、その中に王冠の形をした環状の台座のようなものがあり、周囲には純白で波形に屈曲した雄蕊が乱立している。およそ最も高貴な蘭科植物の花などよりも更に遥かに高貴な相貌風格を具備した花である。

スカンボの花などもさっぱり見所のないもののように思っていたが、顕微鏡で見るとこれも実に堂々たる傑作品である。植物図鑑によると雄花と雌花と別になっているそうであるが、自分の見た中にはどうも雄蕊雌蕊を兼備しているらしいものも見えた。

カワラマツバの小さな四弁花は弁と弁との間から出た雄蕊がみんな下へ垂れ下がって花心から逃げ出しそうにしている。ウツボグサの紫花の四本の雄蕊は尖端が二た叉になっていて、その一方の叉には葯があるのに他の一方はそれがなくて尖ったままで反り曲っている。こうした造化の設計には浅墓なわれわれには想像もつかないような色々の意図があるかもしれないという気がする。

以上のような花に比べると例えばホタルブクロのような大きな花は却って二十倍くらいに廓大して見てもそれ程びっくりするような意外な発見はないようであった。