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こうげんのたいよう
高原の太陽
岡本 かの子
「むらさき」1937(昭和12)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,558 字 · 17 页
かの女は其処で制作しつつある青年の絵が必ず立派な力の籠った作品であろうことを予期すればする程、何か、自分のなかから摂取して行った人のエゴイズムを憎むような憎みさえ感じるのであった。けれど……しかし、憎みとばかりは云い切れない心内の自覚をかの女自身にも追々感ぜられるのであった。かの女の病的な内気さも追々溶け何か生命の緒を優しく引きほぐされて行くようなあてもない明るさが、かの女の生活にいつか射し添っているのであった。
秋になった或日フランスの兄からかの女に手紙が来た。
「重光君から度々君のことを書いた手紙が来る――君は重光君と結婚したまえ」
簡単ながら決定的な文意であった。
かの女は今更別だんの衝動も心にうけなかった。――まあ、私に云わないで兄さんに云った――かの女はごくあたりまえにこう内心で独り言を云っただけだった――そして普通の友人の絵でも見に行くように重光青年から招待されて、上野の展覧会場へその秋の傑作の一つと評判の高い「高原の太陽」と題する青年の出品画を観に行った。