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こうだいじ
高台寺
宮本 百合子
「新潮」1927(昭和2)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,503 字 · 14 页
制服を着、帽子を胡座の上にのせ、浮れていた。地方の唄をすっかり暗誦していて合わせたり、
「ほらほら、あれがそや」
「ええなあ……恍惚する程ええやないか」
一菊と云う舞妓は、舞いながら、学生が何か合図するのだろう、笑いを押えようとし、典型的に舞妓らしい口元を賢こげに歪めた。
夥しい群集に混ってそこを出、買物してから花見小路へ来かかると、夜の通りに一盛りすんだ後の静けさが満ちていた。大きな張りぬきの桜の樹が道に飾りつけてあり、雪洞の灯が、爛漫とした花を本もののように下から照している。
一台の俥が勢よく表通りからその横丁へ曲って来た。幌をはずして若い女が斜めに乗り、白い小さい顔が幸福そうに笑っている。見ると、俥の後に一人若い袴をつけた男が捉り、俥と共に走っていた。更に数間遅れて一かたまりの学生が、
「一菊バンザーイ! 一菊バンザーイ!」
歓声をあげ、俥を追って駈けて来る。揉まれながら俥はどんどん進み、一緒に走ってゆく男の幅広い下駄で踵を打つ音が耳立って淋しく聞えた。
野蛮な声の爆発が鎮ると、都おどりのある間だけ点される提灯の赤い色が夜気に冴える感じであった。