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たかおざんげ
高尾ざんげ
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,252 字 · 21 页
菊千代が細そり眼を開くと、檜山は眉根に皺を寄せて、思いを遠くへやってるようでした。菊千代は大きく眼を開いて、吐息をつきました。
「遅くなって、御免なさい。でも、ほんとに、雪を蹴立てて駆けつけてきたのよ。」
「まだ降ってるの。」
「降った方がいいわね。雪見酒、今夜はあたしにも飲まして頂戴。」
日本酒とウイスキーとのちゃんぽんには、体が温まるのか冷えるのか分りませんでした。銚子を持って来た女中に、菊千代はウイスキーの瓶をさげさせようとしました。檜山はそれを遮りました。
「身体には毒でも、精神には薬さ……飲んでしまうことがね。」
終戦間際に、も少しのところで、檜山は北京へ行くことになっていました。東京在住の或る有力な回教徒に連絡がついており、それと同行して北京へ行き、蒙古から北支へかけての回数徒等に、特殊な働きかけをなす予定だったのです。上層部の講和運動、本土決戦の一般宣言など、後に明らかになった支離滅裂な動きのなかの小さな一つに、その回教徒工作がありました。回教徒の解放独立という純真な主旨だけ抽出して、それに尽力しようとした檜山は、終戦後次第に暴露されてゆく当時の日本の現実にすっかり圧倒されてしまいました。