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かみ

髪

織田 作之助

「オール読物 十一月号」1945(昭和20)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,381 字 · 17 页

青空文庫

と言ってやろうと思ったが、ふと鏡にうつった呉服屋の番頭のような自分の頭を見ると、何故か意気地がなくなってしまって、はあさよかと不景気な声で呟くよりほかに言葉も出なかった。

事変が戦争に変ると、私の髪は急激に流行はずれになってしまった。町にも村にも丸刈りが氾濫して、猫も杓子も丸坊主、丸坊主でなければ人にあらずという風景が描き出された。

このような時に依然として長髪を守って行くことは相当の覚悟を要した。が、私は義憤の髪の毛をかきむしるためにも、長髪でおらねばならないと思った。言いたいことが言えぬ世の中だから、髪の毛をかきむしるより外に手がなかったのである。「物言わねば腹ふくれる」どころではなかった。星と錨と闇と顔が「物言わねば腹のへる」世の中であった。だから文学精神にも闇取引が行われ、心にもない作品が文学を僣称した。そして人々が漸くこのことの非を悟った時には、もう戦争は終りかけていた。

しかし私は少し理屈を言いすぎた。おまけに先廻りすぎた。話を戻そう。――私はとにかく長髪を守っていたのであるが、やがて第二国民兵の私にも点呼令状が来た。そして点呼の日が近づくにつれて、私を戦慄させるようなさまざまな噂が耳にはいった。