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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

琴二郎に園絵――それに相違はねえのだ――。立ち停まって、駕籠の出るのを待った。やがて、駕籠は再び地を離れて、タッ、タッ、タッといきかかる。そこを、追いついた長庵、声を投げた。

「もし、琴二郎さまではございませんか。その後のお駕籠は、琴二郎さまではござんせんか」

と、すぐ、うしろの駕籠から、しずかな声が答えた。

「はい、琴二郎でござる。そういうあなたはどなたで――?」

ちょっと駕籠舁きが足をゆるめて、駕籠が停まりかけた。そこを、長庵は狙っていたのだ。医者とは言え、あぶれ者の長庵のことだから、九寸五分ぐらいは何時だって呑んでいる。それが、闇黒に、魚鱗のごとく閃めいて走った。同時に、長庵、凄い声でうめいていた。

「面倒くせえや! 琴二郎、往生しろ!」

躍りこむように、駕籠をめざして突きさしたのだ。が、それと同瞬、駕籠の中から、垂れを裂いて突き出して来た銀ののべ棒――三尺の秋水だ。声がした。「鍔を見ろ!」

ギョッ! とした長庵、差し出された刀の鍔に眼を凝らすと、黒地に金で「喧嘩渡世」の四字。

身をひるがえした長庵が夢中で駈け出したとき、男と女の笑い声を載せた駕籠は、もう夕闇に消えていた。