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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
が、あの場合、行き掛りもあった。調子に乗って手を伸ばし、ムンズと喬之助の髪を握ってグイ! 力まかせに引っ張り上げたのは、この大迫玄蕃だった。
ちと遣り過ぎたようだわい――あの後すぐ、軽い後悔を感じたように、玄蕃は未だにそう思っているのだった。
それからが大変ごとだった。
泣いていたと思った喬之助は、泣いていたのではなくて、顔を伏せて笑っていたのだ。そして、一同を尻目にかけて、控所を出て行った。止せというのに、戸部近江之介が後を追った。と、間もなく、その近江之介の首が溜りへ投げ込まれて、喬之助は、それ以来、厳しい詮議の眼を掠めて、今に姿を現さぬのである。
さぞこの俺を恨んでいるだろうな。じっさい、あの喬之助だけは見損った。女子を嬉しがらせるほか能のない、生ッ白い青二才とばかり思い込んでおったのが、あの、俺に髪を取られた顔を上げた時の、豪快な笑い声はどうだ! また、相当腕の立つ近江之介殿をあッと言う間に文字通り首にしたばかりか、大胆といおうか不敵と言おうか、城中番所の窓から抛り込んでおいて逐電した喬之助のやつ、恐ろしく出来るに相違ないのだ……。
虫の知らせというのか、大迫玄蕃は、その神尾喬之助が、どこからか、今度は自分の首を、日夜狙っているような気がしてしようがないのである。