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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
と退ったかと思うと、ピタリ襖を閉め切ってしまった。襖が右近を呑んだかたち……。
同時に、一同のうしろの、先刻喬之助の消えた障子がサラリとあいたから、野分に吹かれた秋草のように、一同が、そっちをふり返ると、今度はこっちに立っている……喬之助が。
しかも、満面に不敵な笑みをたたえて、挑むが如き剣尖を躍動させているから、今はもう不思議だなぞと首を傾げてはいられない。カッ! と怒りを発した源助町の天童利根太郎が、
「ウヌ! 愚弄致すかッ!」
真っ先に打ち込むのを合図のように、バラバラバラッと縁側に雪崩出ると、いまここにいた喬之助の姿が見えないのだ。
「ヤーッ! どこへ行った――」
「いずくへ参った?」
「拙者はいま、眼のまえにあの顔を見て、体当りをくれてやろうと思いおったところだが……」
「喬之助とて、怪神の類ではあるまい。嘲弄致すにもほどがある」
連中はプリプリして、抜刀を引っ提げながら手分けしてウロウロそこらを探し廻っていると、
「居る、いる! ここにいるぞ」
まるで、お姫様が毛虫を発見けたような消魂しい叫び声が、奥のほうから聞えて来る。保利庄左衛門、箭作彦十郎、飯能主馬、春藤幾久馬等の声だ。