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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
今がそれで、
「年齢のせいか、どうもよく聞えぬ。しかし、何じゃと言わるる?」
先刻から、何か一生懸命に話して来た脇坂山城守は、妙に腰を折られた恰好で、
「いやなに、伊豆屋伍兵衛は、今回の騒動の張本人、神尾喬之助めの妻の生家であってみれば、このさい――」
エヘン! エヘン! と、相模守は、余計なことを言うな、その先は言わぬほうがよかろうといわぬばかりに、出もしない咳払いをしながら、さも聞き取り難いといった顔つきで、眉をしかめ、手を、耳のところへ屏風に作って、
「あアン?」
脇坂山城守は、一層魔誤魔誤するばかりだ。
「このさい、伊豆伍のほうの油御用はお出入りを差しとめ、いずくか然るべき――それにつけて、拙者推薦いたしたきは、下谷長者町の筆屋幸兵衛なるもの……」
「暫らく」その時まで黙っていた平淡路守が、苦にがしそうに口を挾んで、「お話の筋が違いは致しませぬかな」
「その筆屋幸兵衛なるもの、まことに勤勉者でござって」山城守は、言い出した以上、早く終いまで言ってしまおうと、この秋涼に、額部に汗までにじませながら、「この者にお油御用をお命じつけなされたほうがよろしかろうと、拙者愚考いたし、係の者まで、それとなく申し入れましたところ、上役のお言葉さえあればとのこと、元より拙者、役目違いの儀は重々存じおりますなれど……」