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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

で、山城守は長庵をやきもち坂の屋敷へ呼んで、程よく膝を曲げて頼みこんでみると、長庵の曰く。

「へへへ、お安い御用でございます。さっそくその、園絵さんとやらを旨アく誘き出して、何でございましょう殿様、その、芝の源助町の、納豆、じゃアない、ヤットウの先生の神保造酒、無形一刀流の町道場、そこへ引っぱって行けあよろしいんで。なアに、御安心なさいませ。この長庵めが、一度ズンと呑みこんだ日にゃあ、へへへへへ、殿様のまえでございますが、ナニ、仕事のしぞこないということは、金輪際ございませんので。ところ――」

と、そこは、ただでは動かない抜目のない長庵が、変に口をモゴモゴさせて何かお礼のことを仄めかしそうだから、山城守は先手を打つ気で、

「わかっておる。わかっておるぞ。其方からも前まえ頼まれておる筆幸油御用の一件ナ、あれを一つ、この機会に心配してやろう。そこは余が奔走して、見事にまとめて見せるから、その代り、園絵を神保へつかわすことは、そちの働き一つじゃ。よろしく頼む」

長庵になってみれば、油御用の株が伊豆伍から奪われて筆幸へ廻れば、筆幸から途法もない謝礼が転がり込む約束になっているから、元より万事、慾と二人づれでなければ一寸も動かぬ長庵である。