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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
「ウウム、どこへ参った」
「屋敷のそとへ逃げはしまいな」
「逃げたかも知れぬぞ、ことによると」
大声に話し合いながら、奥の部屋部屋を探し廻って、仏壇の置いてある一室の前を通りかかると、
「ちょっと小指をかすったのだ。なあに、大事ない。蚊が喰ったようなものだ」
ひとり言をいいながら、喬之助が、手拭を裂いて右手の小指を縛って起ち上ったところだ。
発見けたのは、先頭に立っていた屋敷の主人長岡頼母である。
「むッ!」
ものを言うひまはない。おめきざま、一剣、尾を引くと見えて喬之助の胴へ――極まったか! に思われた秒刻、ガッ! 柄を下げて払い落した喬之助だ。流された頼母、勢こんでおのが力に押されて、タタタタアッ、のめり足、爪さきに畳を踏んで、ままよ、ふところ深くつけ入って鍔ぜり合いといこうとそのまま、飛び込んで来る……そこを! 腰をおとしざま、逃げるように退った喬之助、低めた剣を立て直して、つるぎの逆茂木、下正眼につけたうえ、はずみというものは恐ろしいもので、見事、頼母は自分のほうから追いかぶさるようにブッ刺さって、
「ウワアッ!」
叫喚だ。血しぶきだ。朱硯を叩き割ったように、血が、ザッと音して噴火のように飛ぶ。