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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

長庵が、お妙を押すようにしてはいって来た。

三

この源助町の道場へ、長庵がお妙をつれこむのを見すまして、魚心堂はどこへ行ったか。

それから間もなくである。

また一人の侍が、この道場の玄関に立って案内を求めている。

妙見勝三郎である。

妙見勝三郎……御書院番士の一人。肩幅の広い、ガッシリした、四十恰好の侍だ。

黒羽二重の羽織に、袴、リュウとしたなりだがその夜ふけに供もつれずに何しに来たのか――それはとにかく。

「頼もう、頼もう……」

と、しきりに奥を覗き込んで呼っているそのうしろ姿である。

背中のまん中、上寄りのところに、羽織の紋をかくして半紙一枚の貼紙がしてあるのだ。

背中の貼紙――「亡者」と大書してある。

亡者……と書いた紙を背中に背負って、妙見勝三郎は神保造酒の許を訪ずれて来ているのだ。

勿論、自分は知らないのだろう。

誰だって、うしろに眼がないから、背中には何を書かれたってわかりっこない。

「頼もう、お頼み申す」まだやっている。

背中に「亡者」の貼紙をしょった妙見勝三郎……不気味な夜の訪問者である。

が、聞えないのか、奥からは誰も出て来ない。