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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

七日は過ぎたが、危険の最中である。今までどこに潜んでいたのか、縞の着物に股引き腹掛け、頭髪も変えて、ちょいと前のめりに麻裏を突っかけて、歩こうかという、すっかり職人姿の舞台に付いているこの喬之助である。

黒門町の家で壁辰を待って、すぱり、すぱりと煙草の輪を吹き上げている。

大通りに、木遣りの声が流れて来た。

人情杉板挾

一

下谷長者町に、筆屋幸兵衛という、筆紙商の老舗がある。千代田城のお書役御書院番部屋に筆紙墨類を入れている、名代の大店だ。今度隣りに地所を買って建前を急ぎ、このたび落成したので、壁一切を請負った関係上、黒門町の壁辰も、二、三の弟子を連れて、きょうの棟上げに顔を出している。

ちょうど七草の日だ。

これこそ日本晴れという天気であろう。紺いろの空に、鳶が一羽、悠々と輪をえがいて、気のせいか、道ゆく人の袂をなぶる風にも、初春らしい陽のうごきが見られる。女の廻礼は七日過ぎてからとなっている。町家の内儀や娘らしいのがそれぞれに着飾って、萠黄の風呂敷包などを首から下げた丁稚を供に伴れて三々伍々町を歩いている。長閑な景色だ。

七草なずな、唐土の鳥が――の唄に合わせて、とことん! とことん! と俎板を叩く音が、吉例により、立ち並ぶ家々のなかから、節面白く陽気に聞えて来ていた。