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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

「はい。この長庵めがお引きうけ申しました以上、口幅ったいようでございますが、ズンと御安心なすって下さいまし」

「うむ。いつもながら頼もしいぞ」

「恐れ入ります。ごめん下さいまし」

脇坂山城守に挨拶を済ました村井長庵が、腰を上げて帰ろうとしていると、いつの間にか空の一角が曇って、雨を宿すらしい真っ黒な雲が、お庭の樹立ちの上に古綿のように覆いかぶさっているから、お縁へ出てそれを見上げていた長庵が、室内の山城守を振り返って、

「殿様、恐ろしい降りになりそうでございます」

「そうさのう」山城守は、何かもう他のことでも考えているのか、うるさいと言わんばかりに、気のなさそうな声だ。「雨か。なるほど、雨になるらしい模様だな」

「稼業用の一張羅を濡らしましてはかないません。やって参りませんうちに、いそぎますでございます」

「うむ。それがよい。早う行け」と、山城守は、つぎの間に控えている小姓に声をかけて、「これこれ、長庵が帰るぞ。誰ぞある。たれか長庵を送ってとらせい」

「いえ、もう、それでは、却って恐れ入りますでございます。失礼ながらおやしきの勝手を心得ております長庵、ひとりで引きとらせていただきますでございます」