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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

背中の児に浅瀬を教わるとはこのことだ」と、そして、お妙の背をさすって、「もういい、笑え、笑え。父も、年をとったら気が短くなってナ――ねえ神尾さま、あなたも一つ笑って下せえまし。笑って、まアゆっくりとお話を伺おうじゃアありませんか」

別人のよう、自分から先に立って茶の間へ通り、ぴったりすわって、にこにこしながら喬之助を振り返ったから、喬之助も、きまりが悪い。

抜いていた蛇丸の短刀を鞘に返して、殺気走っていた顔を持前のやさしさに戻すと同時に――かれは、不思議な気がしてならなかった。

どうしてこの娘は、見ず知らずの自分のために、そして江戸で評判の追われ者となっている自分に、その科人と知りながら、こうまでつくしてくれるであろう? いまの言葉によれば、自分を思っていてくれる――とのことだが、もしそれが父の十手の鋭鋒を鈍らすための、単なる一時の方便でなく、ほんとにじぶんに恋を感じているのだとすれば――それはまことに困ったことである。自分には、元はと言えば、そのことから、戸部近江之介と鞘当てになって、こんにちこんなようなことになったほどの、伊豆屋の娘のお園、改名して園絵という、思い思われた妻があるのである。