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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
茶の間では、父の壁辰と喬之助とが、ぽつり、ぽつりと話し合っていた。当りさわりのない話題だった。元日の事件のことや、喬之助の身の振り方などには、まだどっちも触れていなかった。ただ、こう言っている父親の声が、お妙に聞えた。
「ここにいなさる分にゃア、わたし共はちっともかまいませんが、何しろ人の出入りの多い家だから、かえってお為にならねえかも知れねえと、それを心配いたしますよ」
厭なお父つぁん! なぜあんなことを言うんだろうと、お妙は恨めしかった。
「お妙」父親が呼んでいた。「飯にしよう。一本つけるんだ。魚安へ走ってナ、何か見つくろいをそう言って来な」
お妙が、ちょっと顔を直して、いそいそと魚安へ走った時、さアッと雲の流れが早く、いまにも泣き出しそうな模様になっていたのだった。
六
こみ入った話は、いずれ食後にでもというのであろう。お酒と御飯のあいだ、壁辰と喬之助は、世間話のほか何もしなかった。お妙にとっては、消え入りたいように恥かしい、お酌と給仕であった。喬之助は、その白い端正な顔に何らの表情もうかべずに、べつに遠慮をするでもなく、膳に向っていた。