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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

で来たのだが!――かつて負けたという例がない。

というのは、神尾喬之助に生きうつしの、まさるとも劣らぬ美青年の茨右近。その神尾喬之助が、虚心流無二の遣い手であるように、右近は、芸州浪人と名乗っているだけに、かの二見ヶ浦の片ほとりに発達しきたった、天馬空をゆく独特の速剣、観化流の大統をつたうる、当代唯一の妙刀であったからで。

静中観物化――という論語のことばを採ってもって流名とした観化流。

二

いま一般に江戸で行われている諸流のごとき、生やさしいものではない。

静中にあって心身をしずかにし、まわりのものの変移流転の相に眼をとめている――が、一度発するが早いか、石を絶ち、山を裂き、人を砕かずんば止まざる底の剛剣――それが、喧嘩渡世の茨右近である。

加うるに、百剣林立のあいだといえども吾れいかんという、なに、そんな固ッ苦しいことは言わないが、とにかく、怖いという感情を生れる時に忘れて来た、意地と張りとで固まっている美女、知らずのお絃という姐御がくっついているのだ。

鬼に金棒。似たもの夫婦。

これなら、どこの喧嘩へ顔を出しても、ひけをとることのないのが当り前で、江戸一円、何の喧嘩物言いと限らず、すこしむずかしいとなると、一切この喧嘩渡世へ持ちこんでくる。