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あゆのししょくじだい
鮎の試食時代
北大路 魯山人
「星岡」1935(昭和10)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,210 字 · 3 页
そうしてこの時以来、あゆの味はいよいよ真剣な宿題として残されたのである。
その後しばらくしてうまいと思って食ったのは、京都の保津川のほとりにおいてであった。洛西嵐山の渡月橋を渡って、山の裾を七、八丁登ると、そこに嵐山温泉というのがある。ここで食ったあゆこそはなるほどと得心がいった。まったくうまいと思って食った。いつのころかはっきり憶えぬが、なんでも好況時代の絶頂に達したころででもあったろうか。ここのあゆは一尾五円を通常の値段としていたそうだ。
織物で京都屈指の名家たる今出川堀川の北川の主人某が、かつてわたしに向かい、「京都であゆを食えば、まず通常は二円で立派なものが食えますね。ところが、嵐山に行って食うと一尾五円は出さなあきまへん。京都広しといえども、五円のあゆを嵐山まで食いに出かけるものは、京都人にもまずおらへんやろ」と、いうのである。
そうしたご自慢を聞かされたわたしも、当時まだそういうふうに自由に食欲を満たすだけの財力を持たなかったから、うまいには相違ないと羨望しながらも、得心のゆくまで食うわけにはゆかなかった。ただいたずらに憧れるだけだった。