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たいつりしろうとばなし

鯛釣り素人咄

佐藤 垢石

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,992 字 · 12 页

青空文庫

だが、真鯛の産地といえば、昔から瀬戸内海を随一とされ、近年は東京湾の内外が釣り人から認められるに至った。

春になると、瀬戸内海は鳴門と音戸の瀬戸の東西両方から乗っ込んでくる。これを桜鯛と言っているが、鯛は土佐沖の深い海底に一冬を送り、春が訪れると産卵のために内海さしてのぼり込んでくるのである。

いまも昔も、この桜鯛をいちばんおいしい季節であると関西の人は言っているが、これには異論があるようだ。

桜鯛といって人気があるのは、四、五月頃の産卵の季節に最も数多く漁れるからであってその季節が最も美味というのではないらしい。総じて魚類は、腹に生殖腺が発達すると脂肪と肉の組織の一部分をその方へ吸収するから、魚体が痩せて味が劣ってくるものである。鯛も同じことであって、産卵前と産卵後の八月頃までが一番味が劣っている。秋風吹き始めた九月頃からそろそろおいしくなり、十一月、十二月、それから寒に入った頃が至味となるのである。

東京湾内へも、四、五月頃になると遠く太平洋の方から乗っ込んでくる。産卵の季節は大体、瀬戸内海と変わりがないようだ。

そこで、我々釣り人が疑問とするところは、外洋から乗っ込んできた鯛と、内海に居付いていた鯛と、味品の区別に関西と関東とが反対である点である。