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ますのたまご

鱒の卵

佐藤 垢石

「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,674 字 · 4 页

青空文庫

試みに、漬物屋のイクラを那珂川へ持っていって、はや釣りをやったところが、盛んに釣れたのである。その後、天然鱒が遡らない東海道地方の渓流へ赴いて、イクラを餌にしたところ、山女魚が素晴らしく釣れた。これは、鱒の卵と、山女魚の卵と同じ質のものであろうからと思う。

山女魚は、自分たち仲間が、産卵をはじめると、やはり鱒が産卵場についた場合と同じように、その卵を盗み食うのである。だから、全国いずれの川へ臨んでもイクラで山女魚が釣れるのに、不思議はないのだ。

イクラを鈎にさすには、一粒乃至二粒でよろしい。数多くつける必要はないのである。鈎合わせは素早い方がよろしい。

去年、磐城国の鮫川の上流へ注ぐ、一本の渓流へ山女魚釣りに行った。ここは、あまり都会人の注目せぬ場所であったから、行くたびに数多く釣れたのであったが、そのときはいつの間にか荒らされていたと見えて、極めて成績不良であった。そこで、私は試みにこんなことをやってみた。イクラのひと抓みを、口にふくんでそれを唾液でよくぬらし、それをぱっぱっと渓流の落ち込みへ吐いた。つまり、寄せ餌にするつもりであったのである。