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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
* * *
四国阿波の国第一の峻峰、つるぎ山の頂から一羽の角鷹が、バタバタバタと翼を鳴らして斜めに飛び、やがて、模糊とした霞の底へ沈んで行った。
何かの音におどろかされて、甲賀世阿弥は、ふッと、深い夢からさめた。
さめて、あたりの現実を見廻してみると、ここは江戸の観音堂でもなく、また花の散る朧夜でもなかった。
江戸の地から何百里を隔て、本土の国とは鳴門の海を隔てた阿波の国――。それも、海を抜くこと六千尺にあまるつるぎ山の洞窟である。
チチ、チチ、と山千禽のさえずりが聞こえるから、もう夜は明けているのだろうが、世阿弥の側には、魚油を点した火皿の燈心が、今のかれの命のように、心細く燃え残っている。
「ああ……」
と世阿弥は、夢の疲れを太く呻いた。
この洞窟の中こそ、つるぎ山の間者牢である。かれが十一年の春秋をくり返した阿波の山牢。
また今年も、雪が解けて、春がきて、木の芽が吹いた。そして、きょうという日の夜が明けたが、それは、世阿弥にとって何の希望を意味するものでもなかった。
深い洞窟の中は、三間幅ぐらいな板敷となっていて、そこに、藺ござや獣皮が敷いてあった。