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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

うろたえ者め! 早く鳴子を引いて麓へ合図をしろ! 早く引けッ、鳴子をッ」

「おッ」

と、蹴飛ばされたようにはね上がって、

「そうだった!」と山番の一人、バラバラと彼方の黄櫨の木の下へ駈けだした。

ヒラリと、その喬木の下枝へ飛びついたかと思うと、猿のようにバサバサと木の葉を散らして攀じ登った。

登りつめた八分目の梢に、タラリと、一本の藤蔓がかかっている――、片手で幹に抱きついて、片手をそれへ伸ばした山番の下士が、力いッぱいグンと引くと、電波のような力のうねりが、喬木の梢から梢をへて、谷のあなたの山関へ届いた様子……。

かすかだが、物々しく、グワラグワラッと鳴った合図の音響が返ってくる。

下に立って、仰むいていた啓之助は、それを聞きたしかめて下りようとする上の者を、

「待てッ」と手をあげて制止した。

「待て! そして、しばらくそこで様子を観望しておれ」

「は!」と、虚空で返辞をする。

「見えるだろう、鞘橋の木戸が」

「うかがえます――、只今の鳴子合図に、手配の人数が動きだしました」

「ム、鬼淵の間道のほうは?」

「よく見えませぬが……」と樹上の居場所をかえて手をかざしながら――「オオ、駈け向ってゆきました、原士の方が十四、五名」