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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

そういう溜息がでた後は、いつでもきまってお体が悪くなる。気をかえて、雲雀の声でもお聞きなせえ」

「思い出すと腹が立つもの……」

「まアよろしいじゃござンせんか。これが、大江山へでもさらわれて、酒顛童子のようなやつを亭主にしたというのなら、そりゃ諦めもつきますまいが、城下端れの小粋な寮へ納まって、お化粧料もタップリなら、遊山やぜいたくもしたい三昧、森啓之助様の思われもので、お米の方様というお身分は、決して悪い仕合せじゃございませんぜ」

この仲間の粘り舌が、少ししつこくなってきたので、傷つきやすい旅の心は、急に女を憂鬱にさせた。

もう、いわずもがなのことだが、この痩形の美人こそ、去年の秋まで、大阪の立慶河岸にいた川長の娘お米であった。

連れているのは啓之助の仲間、お米を阿波へ運ぶ時に、骨を折った宅助である。二人の口ぶりから察するに、お米はその後、心ならずも、啓之助の意に従わねばならぬ、余儀ない境遇に落ちているらしい。

だが、その心の奥底には、当然、まだ啓之助の腕では、ねじ伏せきれないものかあるだろう。

それが二人の会話にチラチラ出る。弱い女の不平と反抗だ。