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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
「行ってこい! だが、なんだぞ、もし大阪へ行ったきり戻らぬ時には、きッと命を貰いにまいるぞ、いいか、それだけを忘れるなよ」
「まあ、邪推ぶかい」
「それでなくとも、貴様は剣山の隠密みたいに、隙さえあれば逃げたがっているんだ」
「そんなことがあるもんですか、きっと、一日でも早く、阿波へ帰ってまいります」
「宅助を付けてやる、あれを連れてゆけ」
「エエ、その方が、私も気強うございます」
「で、近いうちには、お関船の便がないから、上方へ荷をだす四国屋のあきない船へのせて貰うがいい。そして、帰りには、月の下旬に阿波へ戻る同じ船で、きっと帰ってこないと承知せぬぞ」
ともすると、啓之助が気を試そうとするふうなので、お米はうれしそうな顔色を隠すことに注意していた。
と。二人のいるこの納屋蔵のまわりへ、急ぎ足にきた人足が止まって、
「森様――。森様はここにおいでではございませんか」戸をこじあけて入ってくる様子だ。
「あ、誰かきました」
「お米」
啓之助はあわててあたりを見廻して、納屋番の藁ぶとんが積んであるうしろへ、女を隠した。そして自分から入口の土間へ姿をみせ、
「啓之助はここにいるが、なんじゃ」