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かもめ

鴎

太宰 治

「知性」1940(昭和15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,451 字 · 23 页

青空文庫

芸術家という、一種奇妙な動物である。この死んだ屍を、六十歳まで支え持ってやって、大作家というものをお目にかけて上げようと思っている。その死骸が書いた文章の、秘密を究明しようたって、それは無駄だ。その亡霊が書いた文章の真似をしようたって、それもかなわぬ。やめたほうがいい。にこにこ笑っている私を、太宰ぼけたな、と囁いている友人もあるようだ。それは間違いないのだ、呆けたのだ、けれども、――と言いかけて、あとは言わぬ。ただ、これだけは信じたまえ。「私は君を、裏切ることは無い。」

エゴが喪失してしまっているのだ。それから、――と言いかけて、これも言いたくなし。もう一つ言える。私を信じないやつは、ばかだ。

さて、兵隊さんの原稿の話であるが、私は、てれくさいのを堪えて、編輯者にお願いする。ときたま、載せてもらえることがある。その雑誌の広告が新聞に出て、その兵隊さんの名前も、立派な小説家の名前とならんでいるのを見たときは、私は、六年まえ、はじめて或る文芸雑誌に私の小品が発表された、そのときの二倍くらい、うれしかった。ありがたいと思った。早速、編輯者へ、千万遍のお礼を述べる。