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かもめ
鴎
「知性」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,451 字 · 23 页
聖書のことを言おうと思ったのだ。私は、あれで救われたことがある、と言おうと思ったのだが、どうもてれくさくて、言えない。いのちは糧にまさり、からだは衣に勝るならずや。空飛ぶ鳥を見よ、播かず、刈らず、倉に収めず。野の百合は如何にして育つかを思え、労せず、紡がざるなり、されど栄華を極めしソロモンだに、その服装この花の一つにも如かざりき。きょうありて明日、炉に投げ入れらるる野の草をも、神はかく装い給えば、まして汝らをや。汝ら、之よりも遥かに優るる者ならずや。というキリストの慰めが、私に、「ポオズでなく」生きる力を与えてくれたことが、あったのだ。けれども、いまは、どうにも、てれくさくて言えない。信仰というものは、黙ってこっそり持っているのが、ほんとうで無いのか。どうも、私は、「信仰」という言葉さえ言い出しにくい。
それから、いろいろとまた、別の話もしたが、来客は、私の思想の歯切れの悪さに、たいへん失望した様子でそろそろ帰り仕度をはじめた。私は、心からお気の毒に感じた。何か、すっきりしたいい言葉が無いものかなあ、と思案に暮れるのだが、何も無い。私は、やはり、ぼんやり間抜顔である。