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かもめ

鴎

太宰 治

「知性」1940(昭和15)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,451 字 · 23 页

青空文庫

少し酔って来た。すし屋の女中さんは、ことし二十七歳である。いちど結婚して破れて、ここで働いているという。

「だんな、」と私を呼んで、テエブルに近寄って来た。まじめな顔をしている。「へんな事を言うようですけれど、」と言いかけて帳場のほうを、ひょいと振りむいて覗き、それから声を低めて、「あのう、だんなのお知合いの人で、私みたいのを、もらって下さるようなかた無いでしょうか。」

私は女中さんの顔を見直した。女中さんは、にこりともせず、やはり、まじめな顔をしている。もとからちゃんとしたまじめな女中さんだったし、まさか、私をからかっているのでもなかろう。

「さあ、」私も、まじめに考えないわけにいかなくなった。「無いこともないだろうけど、僕なんかにそんなことたのんだって、仕様がないですよ。」

「ええ、でも、心易いお客さん皆に、たのんで置こうと思って。」

「へんだね。」私は少し笑ってしまった。

女中さんも、片頬を微笑でゆがめて、

「だんだん、としとるばかりですし、ね。私は初めてじゃないのですから、少しおじいさんでも、かまわないのです。そんないいところなぞ望んでいませんから。