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おうがい・あくたがわ・きくちのれきししょうせつ

鴎外・芥川・菊池の歴史小説

宮本 百合子

「古典研究」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,337 字 · 24 页

青空文庫

を傾けて忠利から殉死の許可を獲て、それで己は家族を安穏な地位に置いて、安んじて死ぬことが出来ると、晴々と昼寝してから腹を切りに菩提所東光院に赴いた心理に対蹠する、複雑な翳として忠利の死という一事をめぐっているのである。

武家気質というものをそれなり歴史のなかのものと承認して、その心理の範疇のなかへ近代人としての鴎外が整理と観察の光りを射こんだ創作態度から云うと、この「阿部一族」は内容、構成、文章等最も傑出した作品である。

今日の私たちにとって、森鴎外のこういう歴史への態度は、おのずからいろいろのことを考えさせると思う。「興津彌五右衛門の遺書」は、鴎外が人間の異常な行動のモメントとして、強烈な感銘を本人に与えた一片の恩義が猶よくその人の生命を左右する力をもっていることを、美と感じたロマンティックな創作動因に立っている。封建の思惟をロマンティックな作者の精神高揚でつつんだものであった。

「阿部一族」では、そのようなロマンティックな要素も作品の一つの色彩とはしつつ、作者はぐっとリアリスティックに心理と経済の事情にまで広く多岐に踏みこんで、一人の君主の死が、武家社会に波及させた悲劇と生死の幾とおりもの姿を描き出している。