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しぎつき

鴫突き

寺田 寅彦

「野鳥 第一巻第八号」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,330 字 · 5 页

青空文庫

時々宅の庭の手入れなどに雇っていた要太という若者があって、それが「鴫突き」の名人だというので、ある日それを頼んで連れて行ってもらった。

それは薄曇りの風の弱い冬日であったが、高知市の北から東へかけての一面の稲田は短い刈株を残したままに干上がって、しかもまだ御形も芽を出さず、落寞として霜枯れた冬田の上にはうすら寒い微風が少しの弛張もなく流れていた。そうした茫漠たる冬田の中に一羽くらい鴫が居るのを見付け出すということは到底素人には出来ない芸当であったが、さすが専門家の要太の眼には、不思議なフィルター・スクリーンでもあるかのように、実に敏感に迅速にそれを発見するのである。

片手を挙げて合図をして「居た居た、あそこに」と云われても、どこにどんな鳥がいるのか明き盲の自分にはちっとも見えない。しかし「胸黒じゃ」などと彼は独り合点をしているのである。水平に持って歩いていた網を前下がりに取り直し、少し中腰になったまま小刻みの駆け足で走り出した。直径百メートルもあるかと思う円周の上を走って行くその円の中心と思う辺りを注意して見るとなるほどそこに一羽の鳥が蹲っている。