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しぎつき

鴫突き

寺田 寅彦

「野鳥 第一巻第八号」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,330 字 · 5 页

青空文庫

「鴫突き」を実見したのは前後にただこの一度だけであった。のみならず、その後にもかつて鴫突きの話を聞いた事さえない。従って現在高知にそういう狩猟法が残存しているかどうか、また高知以外の日本のどの地方に過去現在のいずれかに同様なものが行われて来たかどうか、ということについても全然なんらの知識も持合わせていない。しかし、それだけにまた、自分にとっては三十余年前の冬のある曇り日のこの珍しい体験が、過去の想い出の中に聳え立った一里塚のように顕著な印象を止めているものと思われる。

「鴫突き」は鉄砲で打つのと比べれば実に原始的な方法のようであるが、また考え方によると一つのスポーツとしてはかなり興味の深いものではないかという気もする。単になるべく沢山の鳥を殺して猟嚢を膨らませるという目的ならとにかく、獲物と相対してそれに肉薄する緊張が加速度的に増大しつつ最後に頂点に到達するまでの「三昧」の時間に相当の長さのあることだけから見てもこれは決してそれほどつまらないものではないだろうと思われる。少なくも鴨猟場で「鴨をしゃくう」のに比べると猟者の神経の働かせ方だけでも大変な差別があるような気がするのである。